効率と共感の時代に、「変身」のための読書は必要か?──2025年8月特集「日常と異界」によせて

bookpondの2025年8月特集「日常と異界」のテーマの意図について。
bookpond 2025.08.03
誰でも

オープンから何日かの営業日をぶじに終え、少しずつワンオペでレジや飲食を回すことにも慣れてきて、手の空いた時間はのんびりと読書をするたのしみも覚えた。来てくださった方に本をたくさん買ってもらえたのはもちろん、仕事前の一服、退勤後の執筆、煮詰まったときの外作業、帰りがけの一杯と、喫茶・喫酒スペースを思い思いに利用してもらえているのは、まさに思い描いていた光景そのもので、さすがに感無量になってしまった。

そして8月に入ったということで、本店の目玉の一つと位置づけている、月替りの特集コーナーがついに始まった。やりたいテーマはたくさんあるのだけれど、最初のテーマをどうしようかはけっこう迷った。が、初回ということもあり、ストレートに「bookpond、ひいては本や書店とは、まちの中でどんな役割を果たすべき場所なのだろう?」という、このお店がある意味のようなものに、直接的にかかわるテーマを特集に据えることにした。

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■2025年8月特集──「日常と異界」

書店など「bookpond」では、月刊誌の特集のように、月替わりの特集棚コーナーを設けています。毎月、特集テーマに沿って、数十冊の書籍をセレクト・販売しています。

2025年8月の特集テーマは「日常と異界」。
2025/08/02 16:02
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いまだにじぶんのことを「本好き」と自称することはないけれど、まぁ冷静に考えて本はけっこう読むほうだとは思う。じゃあ何で本を読むのかと言えば、結局は「変身」の快楽に取り憑かれているから、という気がする。「変身」とは、おもに僕の座右の書のひとつである、千葉雅也『勉強の哲学』において示されている概念で、僕なりに勝手に説明すると、それまでのじぶんの生きる世界にはなかった新たなことばの体系を獲得することにより、それまでのじぶんに「自己破壊」が起こり、あらたなじぶんへと再構築されていくことである。

もちろん、本を読むことのもたらす作用はさまざまで、たとえばすぐに役立つ知識を得たり(≒実用書)、ここちよい文章に触れることで日々の疲れを癒やされたり、じぶんが好ましく思っていない対象を言葉巧みに腐してもらうことで溜飲を下げたり、手に汗握る物語から得られるカタルシスによってストレスを解消したりと、数え切れないほどあるし、どれが優れていてどれが劣っているなどはない。しかし、僕が最も好むのは、すぐに何か役立つとか、あるいは良い気分になるとか、そういうタイプの本ではなくって、それを読んだことでそれまでのじぶんとは決定的に違うじぶんに変えられてしまい、役立つとか役立たないとかそういう時限を超えて、じぶんがかけているメガネそのものを強制的につけかえさせられてしまうような、そんな読書体験だ。

そしておそらく、そういう読書体験は、いまとても「流行らない」のだと思う。効率よく何らかの不安やストレスを解消してくれる本、あるいは深く共感させられることで何らかの安心感やケアを得られるような本、いいかえれば「効率」と「共感」に長けたタイプの本がたくさん売れている印象を受けるし、それがいまの時代にとって必要なのだと思う。じぶんだって、そういう本をある程度読んでいる。

しかし、そうした「効率」や「共感」のパッケージに関しては、僕よりも上手につくったり、届けたりできる人がたくさんいるはずで、わざわざbookpondで注力することはないとも思う。だからこそ、流行らないかもしれないけれど、「変身」をもたらしてくれるような──「日常」の中で「異界」をもたらし、またあらたな「日常」へと再構築させてくれるような──本を届けていきたいと考え、最初の特集は「日常と異界」にした。ちょっと抽象的でわかりづらいテーマで申し訳ないのだけれど、最初なので、じぶんにとって決定的に大切なテーマを設定することを、何よりの優先事項とした。

そして、この特集にひもづけて行われるTALK LIVEは、まさしく「変身」させてくれる読書の作用について、徹底的に考えるというものだ。bookpond、ひいてはじぶんが編集者として重ねてきた営みそのものの根幹にかかわるような渾身の企画で、なおかつ他の場所ではなかなかフォーカスされないユニークなテーマなのではないかと我ながら思っている肝いりの企画だ。席数に限りもあるので、bookpondの旗揚げに加わるという意味でも、ぜひお早めの申込みをいただけると嬉しい。

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〜TALK LIVE〜
最新のTALK LIVEのチケット販売が始まりました。現地参加/配信視聴のいずれも可能ですが、現地参加はお席に限りがありますため、お早めにお申し込みください。

▶▶▶お申し込みは下記のPeatixリンクから
bookpond250823.peatix.com

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▼日時
2025/8/23 (土) 17:00 - 19:00
2025/07/31 20:19
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